東銀座と私/「木挽町よしや」3代目 斉藤大地(前篇)

東銀座と私/「木挽町よしや」3代目 斉藤大地(前篇)

2023.09.27
東銀座のまち
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今と昔を結ぶまち、東銀座。まちや風景は変わってもそこで過ごした時間やかけがえのない経験はいつまでも心に残り続ける―
東銀座にゆかりのある方々に東銀座や銀座、築地などを含め、このエリアで過ごした想い出やこれから期待することなどを文や絵など形態にとらわれず、前篇・後篇として2回にわたり自由に綴っていただくエッセー企画「東銀座と私」。
その第4弾となる今回は、創業1922年、数多くの著名人からも愛される老舗和菓子屋「木挽町よしや」三代目・斉藤大地さんにご寄稿いただきました。幼少期を東銀座で過ごされ、今は商いを営む斉藤さん。新型コロナウィルス感染症の流行がまちに与えた影響も目の当たりにしてきました。

「木挽町よしや」三代目・斉藤大地

一粒の砂糖がけあんずを口に頬張り、片耳に同時解説イヤホンガイド(※1)をセットする。拍子木の合図と共に定式幕が開くのを楽しみにワクワクしながら座席に座る小学生。
幼少期の私である。

一見、生意気な小学生にも見えるかもしれないが、東銀座(木挽町 ※2)で生まれ育った私にとってこれが日常の風景であった。

何を勘違いしたか、将来歌舞伎役者を志していた時期もあり、ひたすら歌舞伎座に通っていた。

地元の泰明小学校から銀座中学校へ進み、学校行事や職業体験、町会イベントを通じ東銀座(木挽町)というまちの温かさ、居心地の良さにすっかり魅了されていった。
「私の自慢のまちです」と胸を張って言えるようになったのもその頃からだろう。

大学卒業後、家業である和菓子屋「木挽町よしや」の三代目として修行を積む。
銘菓は、どら焼きである。
仕込みは毎日明け方4時から始まる。北海道十勝産小豆を炊き上げ半月形の小ぶりな皮に餡を挟んでいく。
よく見かけるどら焼きといえば、二枚の皮で餡を挟んだものが一般的だが、当店の場合は少し違う。歌舞伎座が近い為、役者さんへの差し入れが多い。
そこで初代が「役者さんの紅を塗った口に運ぶなら小ぶりの方がいいだろう…」と一枚の皮を半分にした半月形どら焼きを考案し当時話題に。

半月形どら焼きは「木挽町よしや」の看板商品

二代目に代替わりし、そのどら焼きに刻印できる「オリジナルのマイ焼印」を始めた。楽屋見舞いや手土産に喜ばれ、個人のお客様から、芸能関係、企業の催し物や結婚式に至るまで幅広くご注文を頂くようになった。
現在約10,000本の焼印をお預かりしている。もちろん、歌舞伎座の鳳凰マークもある。(手作りの為1日にできる数に限りがある為、予約分で完売になってしまうこともしばしば。)

初代の教えで「屏風とお店は広げ過ぎたら倒れる」という言葉が幼少期から私の頭に焼き付いている。
銀座で一番小さな和菓子屋を守る、それが三代目の私の役目だと思っている。

店の壁には、お客様から預かった焼印がズラリ



忘れもしない、2020年春。
新型コロナウィルスが世界を震撼させた。
同年4月頃から銀座・東銀座エリア一帯が静まり返り、歌舞伎座や近隣店舗の営業自粛が始まった。
一時的な自粛に留まらず、感染拡大防止の観点から自粛は長期間に渡った。

緊急事態宣言発令中の銀座通り
こんなに静かなまちを見たのは生まれて初めてだった

東銀座で長い歴史のあったお弁当屋さんが閉業にまで追い込まれた。
私の大好物であったそのお弁当屋さんは、東銀座のお祭りや、町会の集まり、催し物などが行われる際は必ずと言っていいほど、ここのお弁当と決まっていた。昔から食べ慣れた親しみのある味だっただけに閉店は本当に残念でならなかった。

「こんな時こそ、まちの役に立ちたい…!」
そんな焦りが私を動かすキッカケとなり、あるプロジェクトを始めた。

その名は「銀座もの繋ぎプロジェクト」である。

当初は予想もしていなかった取り組みが、絶大なるまちのワクチンとなり銀座エリア一帯を賑やかにするプロジェクトへと変化していくのだった。

続きは後半にて。


(※1)株式会社イヤホンガイドが提供する音声ガイドサービス。舞台の進行に合わせて、出演俳優の紹介・あらすじ・衣裳・道具・音楽・時代背景・歌舞伎独特の約束事など、タイミング良く解説をする。

(※2)歌舞伎座が位置するエリアの昔の町名。今でも「木挽町通り」など面影が残っている。



斉藤 大地
東京都中央区銀座生まれ。大学卒業後の2008年より「木挽町よしや」に入社。新型コロナウィルス感染症の流行が影響し、多くの飲食店や企業が経営難に陥る中で、老舗店舗の閉店などをきかっけに、この苦境をまちの絆で乗り越えようと「銀座もの繋ぎプロジェクト」を発案。店舗、企業がそれぞれの自社商品を物々交換しながらまちの魅力を発信するという内容で、2020年4月からプロジェクトの代表を務めている。現在は、『銀座ものひと繋ぎプロジェクト』として進行中である。

銀座ものひと繋ぎプロジェクト

木挽町よしや
1922年創業、歌舞伎座の路地裏に位置し、約100年以上の歴史をもつ老舗和菓子屋。先代の味と技術を守り、煉切で作る手のひらサイズの花ずし、果物かごなどの創作和菓子が名物。生地からすべて手作りし、朝から焼き上げるどら焼きは、しっとりとした皮と、最高級北海道十勝産小豆を使用した、甘さ控えめの餡が特長。オリジナルの焼印は、企業の記念品や結婚式などのお祝い事など、さまざまなシーンで使用が可能。

木挽町よしや 公式HP