今と昔を結ぶまち、東銀座。まちや風景は変わってもそこで過ごした時間やかけがえのない経験はいつまでも心に残り続ける―
東銀座にゆかりのある方々に東銀座や銀座、築地などを含め、このエリアで過ごした想い出やこれから期待することなどを文や絵など形態にとらわれず、前篇・後篇として2回にわたり自由に綴っていただくエッセー企画「東銀座と私」。
その第9弾となる今回は、銀座の老舗・銀座 松﨑煎餅の8代目として革新的な商品を生み出し、和菓子の新たな可能性を追求しながら、DJアンコマンとしても活躍している松﨑宗平さんに生まれ育ったまちの想い出や今後への想いをご寄稿いただきました。今回は後篇をお届けいたします。
前回は、みなさんがよく知っている銀座という街を大きくフォーカスし、その後東銀座について話を移していきました。今回は、今私がお店を出している東銀座についてのイメージからお話をしたいと思います。
銀座の一番西側(実際の地図上は斜めなのですが、銀座で仕事をしていると数寄屋橋側を西、東銀座側を東と言います。)から東銀座、歌舞伎座あたりまでの距離は600m程度。歩いても、大変な距離ではありません。
しかし昭和通りを渡ると街の雰囲気はがらりと変わります。もともと西銀座側に住み、商売をしていた私から見ても、その差は大きかったのですが、言っても600m、同じ銀座!という意識でいました。
しかし、実際、東銀座に引っ越し、商売を開始してみるとたくさんの違いを感じます。
・銀座をイメージした際、必ず出てくる数々のブランドショップが存在しない
・歌舞伎座や東劇、新橋演舞場といった演芸たちの存在
・小さいながらも個性的かつ魅力的な数々の商店(喫茶店やレストラン、和菓子屋)
・銀座の綺麗に整理された美しさとは対照的な良い意味での雑踏感
・所々に点在するマンションをはじめ、東銀座に住んでいる人たちの存在
など、まだまだ引っ越してから3年の私でもたくさんの気づきがあります。
この違いは何から生まれているのでしょうか。
そこには東銀座と銀座の中央区の関わり方にも関係があると思っています。歌舞伎座や演舞場、その周りにある料亭などは、私の小さい頃から東銀座を彩る大切な要素でしたが、近年、中央区は、銀座に対しては商売を軸に規制緩和などを行い、街を発展させてきました。それに対し、東銀座は住人が減ってきている当時の中央区を変えるべく、生活、つまり住居を軸に規制緩和を行なっていました。
今では、東銀座をはじめ、新富町や築地、明石町、湊と近隣にも中規模マンションも増え、たくさんの人の生活の場所にも東銀座はなっている気がしています。
また、銀座に比べれば高くない家賃も関係し、大きな資本がなくても、商売の挑戦ができる場所として、近年は志のある面白いお店がたくさん生まれてきています。私も、コーヒー屋さんや、タイ料理屋さん、とんかつ屋さんなどに行き、楽しい東銀座ライフを過ごしています。そのような中でも私が東銀座で商売したいと思ったきっかけとなるお店があります。
東銀座の中でも、首都高速に限りなく近く、けして賑わっている場所でない、むしろマンションも点在する閑静な街の中で、「1冊(1種類)の本しか売らない」というコンセプトで本を販売している森岡書店さんです。ご縁があって以前からお付き合いさせていただいていますが、チャレンジのしがいのある街なんだと強烈に思った記憶があります。
この出会いは、今年で220年を迎える煎餅屋の代表である私を、チャレンジャーの気持ちで自分がやりたい煎餅屋を作ろうという思いに導いてくれたと思っています。ビルの中に古民家リノベーションのお店をつくるイメージでお店の内装を考えました。また、ただの落ち着いたお店ではなく、ところどころに遊び要素を入れ、入り口にシンボルとなる松のネオン、彩色を変更できるLED、小売店にしては過剰すぎるスピーカー(しかも4つ)など、お店にきていただければ、いろいろな発見があると思います。
スピーカーを良くしたのは、小さな音でも解像度高く、音楽を楽しんでいただけるようにしたいというこだわりと、閉店後のお店で音楽を含めたイベントを開催できるようにし、東銀座の縁をつなぎ、さらに新しい東銀座の賑わいを創造したいという思いがありました。
自分のお店の中で生まれた縁で、また新しい志のあるお店が東銀座に生まれ、銀座とは違う発展とともに、ネオ木挽町が造られていったら、私は面白いと思っています。
おしゃれなアパレルや面白いスナック、レストランやカフェ以外の楽しい要素がどんどん生まれていく、そんなカルチャーのある街に進化できるよう、これからも自分のできることをやっていきたいです。
みなさん、東銀座、木挽町にいらした際は、そんな目で街をぶらぶらしてみたら、もっと楽しくなると思います。私もたまにですがお店をうろちょろしていることがありますので、ぜひ素敵なお店を見つけたら教えてください。一緒に東銀座を盛り上げていきましょう!
皆様にお会いできることを楽しみにしています!
<プロフィール>
松﨑 宗平(まつざき・そうへい)
1978年生まれ。 大学卒業後、グラフィックおよびWEB デザイ ンを行なう IT 企業での勤務を経て、2007年に(株)松崎商店へ入社。2018年に(株)松崎商店代表取締役に就任。1804年に芝で創業し、1865年に銀座へ移転した銀座松﨑煎餅は、200年以上続く老舗の伝統を大切にしながら、地域密着をテーマにしたコンセプトストアなど、時代の変化に合わせた新しい事業を展開。2021年夏には、本店を東銀座へ移転し、屋号をMATSUZAKI SHOTENに変更。また和菓子をもっと身近に。をテーマとするDJイベント「アンコマンないと」を都内中心に不定期で開催、自身もミュージックセレクターとして活動している。